翡翠のはなし
僕が作品に使用している素材、『翡翠』についていろいろお話しします。
専門的な話はなるべく割愛していきます。私もそれほど詳しいわけでもないですから...
翡翠を知る
天然産出鉱物は約5000種類あるとされていますが、実際に使用されているものは約2000種類、宝石としては80から90種類、その中でも市場に出るのは20種類くらいになります。翡翠は市場に出る宝石になります。2016年には国石として選定されました。
まず最初に知っておかなければならないことは、鉱物名と宝石名です。
宝石名 | 鉱物名(和訳名) | 鉱物名(英名) |
ジェダイト 翡翠 |
ヒスイ輝石 (別名「硬玉」) オンファス輝石 |
ジェダイト |
宝石として「翡翠」を鑑別した場合、本物であれば宝石名は「ジェダイト」、鉱物名は「ヒスイ輝石」です。
但し、緑色の翡翠については、鉱物として「ヒスイ輝石」と「オンファス輝石」が混在しているのが普通のようです。
宝石の構造
宝石(ルース)の構造は『単結晶』、『多結晶』の2つに分類できますが、翡翠は多結晶に分類されます。特徴は以下の通りです。
『単結晶』:一つの結晶からできている鉱物で、ダイヤモンド、ルビー、サファイヤなど透明な鉱物が多い。
『多結晶』:小さな結晶が集合してカタチを形成している鉱物で、翡翠、トルコ石、ラピスラズリなど半透明・不透明な鉱物が多いです。産出する際、大きな塊で産出するので、ある程度自由にカタチがつくれるということになります。翡翠はヒスイ輝石やオンファス輝石が集合してできている事になります。
2種類の翡翠
単に「翡翠」(ジェード)と表記されているモノには注意が必要です。翡翠は硬玉(ジェダイト)と軟玉(ネフライト)の2種類が存在します。鉱物としては全然別もので、宝石と使用されるのが硬玉(ジェダイト)で「本翡翠」などと呼ばれる場合があります。僕が素材として表記している「JADE」は全て硬玉(ジェダイト)になります。
軟玉(ネフライト)は、加工のしやすさから彫刻などの素材として使用されてきました。中国で玉といえば軟玉(ネフライト)のことを指します。
ネフライト原石(糸魚川産転石)
翡翠の特徴
例えば手元に出所不明の翡翠があったとします。それがジェダイトなのかネフライトなのか、それとも別の鉱物なのか。鉱物には特定する性質は数多く存在し、簡単に説明することは難しいですが、特徴的な性質を紹介します。
そもそも鉱物の性質とは?
①科学的性質
・科学組成、結晶構造
②物理的性質
・硬度、比重など
③光学的性質
・色、光沢など
多様な色(光学的性質)
基本は白、黒、緑、青、紫、黄色です。白+黒が混ざって灰色になる場合もあります。色の濃淡などもあって、一色でカタチが形成されることはまずないです。
又ミャンマー産の翡翠は糸魚川産とは違い、赤系の色も含まれす。黒翡翠とよばれるモノについても限りなく黒に近い緑だったりもします。
ただあまり見ることはないのですが、サビが入って茶褐色の原石もあったりします。見た目は綺麗とはいえないのですが、作品としては面白いモノが作れるのではないかと思っています。
それから余談になりますが、原石は薄い緑であっても、制作過程で厚みのないカタチになると色に深みがなくなって白っぽい色になってしまいます。
黒翡翠原石(糸魚川産転石)
青翡翠原石(糸魚川産転石)
紫翡翠原石(糸魚川産転石)
緑翡翠原石(糸魚川産転石)
緑、黒、灰、白が混じった翡翠原石(糸魚川産転石)
サビが内部まで浸透した翡翠原石(糸魚川産転石)
翡翠原石(ミャンマー産)
際立つ靭性(物理的性質)
翡翠の特徴として強い靭性があります。硬度こそ低いですがダイヤモンドより割れにくいです。小さな結晶の結びつきが粘り強い翡翠をつくっています。
翡翠の厄介なところ
ここまでは作品づくりに適していると思われますが、残念なこともあります。
『クラック』(ヒビ)です。 とにかく『クラック』が多い、
『クラック』に衝撃を与えると割れてしまいます。作品からいかに『クラック』を取り除くかが問題になります。見た目も悪いですしね。
多結晶である為に、ヒスイ輝石・オンファス輝石以外にも色々な鉱物が混じります。同じヒスイ輝石であっても結晶の大きさが均一でないものがあります。そんな場合、加工もしにくいし見栄えが変わってきます。
緑翡翠原石(糸魚川産転石)
原石選びの注意
僕は市場で売られている翡翠原石を購入することはないのであまり関係ないですが、
市場に出る翡翠には処理石や模造石も多いです。また類似石(フォルスネーム)にも注意が必要です。
①処理石
トリートメント(改造)などと呼ばれていて、結晶と結晶の隙間に樹脂(無色・有色)の含侵処理が行われているモノ。
②模造石
加工する際にできた、宝石の粉末にプラスチックなどを混ぜて温度や圧力でかためたモノ
③類似石(フォルスネーム)
・インドヒスイ…グリーンアベンチュリン(水晶)
・オーストラリアヒスイ...クリソプレース(水晶)
・台湾ヒスイ...ネフライト(軟玉)
・コロラドヒスイ...アマゾナイト
・アフリカヒスイ...グロッシュラー・ガーネット
④エンハンスメント(改良)
表面の光沢をだすための、ワックス等の着色したモノ
翡翠の産地と採集場所
翡翠の一大産地はミャンマーですが、ロシアや南米、そして僅かではありますが日本でも産出されます。
産地~新潟県糸魚川市
糸魚川市の産地としては2か所存在します。
・小滝川ヒスイ峡
・青海川ヒスイ峡
いずれも天然記念物として指定されている為、一切採取は禁止されています。
採集する場所は、産地に近い海岸や河川の下流など限られた場所になります。
採集場所
採集場所としては、新潟県糸魚川市押上~富山県朝日町宮崎の海岸で採集することが可能です。
作品に使用する翡翠について
翡翠アートへの思い
プロフィールとして、翡翠アートの初期の制作活動②を紹介します。
翡翠アートの7作目を制作するまで。
翡翠という素材
これまでリングを2作品完成させて、あることに気が付きました。
貴金属と石を組み合わせた装飾品は、沢山存在します。
それでは石単体ではどうでしょうか。単体で装飾品に加工できる石(鉱物)となると限られてきますが、素材が希少で、美しければ十分魅力的で制作するだけの価値があると思っています。
翡翠は素材としての条件をクリアしています。十分魅力的でありながら、装飾品となるとあまり見ることはありません。勾玉のレプリカなどはよく見ますが、その他のアイテムになると地味な存在なんですよね。需要がないのでしょうか。
そういう訳で、誰も作らなかったアイテムを自分が『翡翠アート』として制作することにしました。
装飾品としての勾玉の存在
勾玉は古代では首飾りなどの装飾品として、使用されていました。その独特のカタチにも諸説あるようですが、素材も翡翠や玉髄などがいろいろ。勾玉にまつわる話は奥が深く、それ自体に特別な存在感があります。 現代においてもレプリカとして沢山制作されていて、安価なものから高価なものまでさまざまです。
それなりに知られてはいるようですが、実際に身につけている人は見たことがありません。身に着けるには翡翠の勾玉は意外と重いです。紐で首に掛けていても気になる重さです。まあ理由は重さだけではないと思いますが…。
翡翠の勾玉(レプリカ)
翡翠の勾玉をアレンジした首飾り
SIZE: 14.0mm * 9.0mm * 6.0mm
MATERIAL JADE(GREEN),LEATHER,WOOD BEEZ,HEMP CORD
勾玉を身に着けようとする場合、その大きさと重さが重要になります。この位のサイズであれば、普段使いで十分いけると思います。
新アイテム~首飾り
「新アイテムとしてのポイント」
- 誰にでも気軽に身につけることができるアイテム。
- 見て、触って、楽しむことができるアイテム。
まあ、そんな事で考えだしたものがこれです。
ベースとなるカタチは、作品#1、#2とそれ程変わりません。
サイズはコンパクトに、全体的にボリュームは落としたカタチで。
翡翠アート 作品#3
勾玉のように紐で首から掛けるところは同じです。
SIZE: 22mm * 10mm
MATERIAL JADE(BLOCK&GREEN )
翡翠アート 作品#4
#3より全体的にフォルムをシャープにしたものになります。
SIZE: 22mm * 10mm
MATERIAL JADE(WHITE)
翡翠アート 作品#5
これまで作品の形状はラウンドだったんですが、これは試験的に制作したモノので、
唯一オーバルの形状になります。
SIZE: 24.5mm * 17.5mm * 10.0mm
MATERIAL: JADE(BLUE)
翡翠アート 作品#6
ペアで制作した耳飾りになります。
サイズは今まで制作した作品の約半分、これも試験的に制作したモノで、小さい作品でも同じように制作できるのかと試した作品です。
SIZE: 10.5mm * 8.5mm
MATERIAL: JADE(WHITE)
さらなる軽量化に挑戦
今までの作品は、強度が気になって全体的にどうも分厚く重量感のあるモノに仕上がっていまでいました。基本的なフォルムは変わりありませんが、もっと動きがあって、しなやかさを出したかった作品です。ぱっと見、石には見えない様な質感を目標にしていました。
翡翠アート 作品#7
SIZE: 18mm * 11mm
MATERIAL JADE(WHITE&GREEN)
試作品などまだあるのですが、今までに作成した作品の紹介は終了です。機会があれば紹介したいと思います。
今後も引き続き、石の魅力を引き出す作品を、
制作していくのでよろしくお願い致します。
翡翠アートに辿り着くまで
プロフィールとして、学生時代から翡翠アート初期の制作活動①を紹介します。翡翠アートの2作目を制作するまでです。
ジュエリーの制作
僕とジュエリーとの接点は、宝飾系の専門学校になります。専門学校ではデザイン、メイキング(彫金)など色々なことを経験しました。
今身に着けている大部分の技術を習得した場所でもあります。
学生時代の振返り
当時を振り返ってみると、仕事と両立して限られた時間の中でとにかく課題をこなしていました。モノ作りは好きでしたので、集中してしまうと時間を忘れて朝まで作業している事ありました。特に苦労したのが『制作基礎』ですね。基礎課題はちょっと...。
何事も最初はそうだと思いますが、全ては『基礎』からです。
失敗を繰り返し課題を完成させるのですが、とにかくOKがでるまで次の課題に進めません。早く完成させても良いものができている訳でもないのですが、「〇〇君は✖✖まで進んだらしいよ」などといった会話が耳に入ってきます。
自分自身が納得できていないものを完成させてもどうかなと思いながらも、課題は進ませたい。そんなジレンマがあり、はやく基礎課題から解放されたいと思っていました。
自由課題に入ってからは、定番の石留めでは物足りず、留め方にこだわったリングと称して作品を制作していましたね。僕はどうも人と同じことをするのが嫌いで...。
まあそんな学生でした。
学生時代の作品
グロッシュラーガーネット+シルバー950
オパール+シルバー950
スタールビー+18Kゴールド
講師から『エロいなぁ』と言われた作品です。
当人は全然意識していなかったので、人から言われてはじめて気づきました。
これってエロいんだ~内なる自分のエロさに気付かされた作品です。
『エロス』をテーマにリングのデザインする課題もあったし、アートとエロは関連深い…
専門学校卒業後の制作活動
卒業後も仕事の空き時間を利用して地味に制作していた感じです。
今の仕事は全然別の業界なので、制作活動と全く接点はありません。
制作活動の中心は翡翠を使ったシルバージュエリーでした。
翡翠+シルバーの組合わせは、学生時代にも課題で制作しましたが、当時はそれ程こだわっていなかったのを覚えています。
今思えばもっと積極的に制作していれば、もっと別のものが生まれていたかもしれません。
翡翠で制作したシルバージュエリー
作品に対するこだわり~石の中に小さな宇宙を感じる
ショップには、鮮やかな緑一色で透明感のある翡翠のジュエリーが並んでいます。
クオリティも高いし綺麗なんですけどね、自分が追及しているものとは何か違う。
僕が作品に選ぶ原石は『魅力的な石』です。
こだわりは 『翡翠の多彩な色をどう作品に表現していくか』 ですが、「これなら良い作品ができそう。」、「同じものをつくるのは不可能。」そう思える石が『魅力的な石』なのです。
石の持っている色の配置・割合など限られた条件下で、最高のものをつくりあげることが制作に必要なことだと思っています。
翡翠リングの制作
きっかけは思いつき
ある日、素材の1つとして身近にある翡翠で何かできないか?と考えたことがありました。使えそうな翡翠ならそれなりにあるし、まあ石の加工技術もない自分にとっては、単なる思いつきだったのですが...
暫くして帰郷した際、父に翡翠でリングつくれないかと相談したところ、簡単にできると答えが返ってきました。
そして数時間後には幅4mm程の翡翠リングができていてそれを見た時は、これなら想像していた物もできるかも、と思った瞬間でした。
翡翠アート 作品#1
学生時代に取り組んでいた『波』をイメージにした作品です。
SIZE: 32.4mm * 11.4mm (#17.5)
MATERIAL: JADE(BLUE)
スケッチ(学生当時のもの)
着彩したレンダリング
着彩したレンダリング・製図
デザインをもとに製作したワックスの原型
例の翡翠リングを使って少しずつカタチにしていき、最終的には強度を考慮し厚みのあるものが出来上がりました。ワックスであればチョット失敗しても最終的には補修などして原型を完成することが出来ますが、石ですから補修などは一切できません。無難に完成させたと言ったところです。
ワックスで原型を制作するように、翡翠原石から思い通りのカタチを、つくることが可能だと知った訳ですが、逆にワックスではできないような特別なモノもカタチにできるではないかと思いました。
オリジナルは鋳造(ロストワックス)と呼ばれる技法で制作しています。
鋳造について簡単に説明すると、
①ワックス(蝋)で原型を作成。
②①の原型をもとに鋳型を作成。
③②の鋳型に金属を流して鋳物が完成。
僕は①~③の工程を一人でやっています。
要するにちゃんと原型をつくり、手順を間違えず鋳造出来れば、原型と同じものが金属で出来上がる訳です。
湯口が残っている鋳造直後の作品
鋳造直後は、真っ黒な状態で出来上がります。
鋳造で制作した作品
MATERIAL: シルバー950
鋳造で制作した作品【別バージョン】
MATERIAL: シルバー950
翡翠アート 作品#2
原石選びから完成まで自身の手で完成させた作品です。
ちょっとボリュームがありますが、これもリングです。
原石を選ぶのも随分悩み、特に「クラック」には気を使いました。
「クラック」が原因で石が割れることがあります。
こうして実際にモノをつくるとなると、色々なこと知り、見えてくることがあります。
モノづくりの大事さを知った作品でもありました。
SIZE: 23.0mm * 11.0mm (#7.5)
MATERIAL: JADE(WHITE)
実はこれ未完成なんです。本当はもっと別のことも試したかったのですが、できていない...もう一歩踏み込んで、テクスチャを表現しようと別の試作品を制作したものの、スキル不足で出来が悪く断念しました。
それが理由でボリュウーム増。
テクスチャを表現しようとした試作品
課題
僕が表現したいテクスチャは、素材にもっと深い彫りこみが必要らしく、それが原因で陰影がハッキリしない。
細く深い線を石に彫り込むのは不可能に近いし、どうしたものか?
今考えていることは、陰影に岩絵具を使い着彩することで陰影を表現するのもアリかなと思っています。黒翡翠の黒の成分は石墨由来の黒色である為、何とか利用することはできないかな?
翡翠は緑でも青でも、基本は白色だし、黒と白は表現できるんじゃないかな。着彩をやるにも未知の領域なんで想像でしかないです。
最後に
#1、#2の作品は、制作当初から『翡翠リング』としか思っていなかったのですが、制作を続けていく過程で今は『翡翠アート』としています。
それから(前述の)課題については、当時は翡翠にこだわって再利用を考えていましたが、現時点では不可能かな…。石墨の成分が少ないし、石墨だけ取り出すのもチョット無理なことが判明、翡翠を再利用することはなくなりました。やるならちゃんとした岩絵具を使用するという方針でいます。